Out Take 03 ~古賀茂明氏~
14/11/03
『原発の倫理学』 日本人としていかに生きるかを考える
<河合> 最近お書きになった『原発の倫理学』という本の要旨を教えていただけますか?
<古賀> はい。日本では、原発について日本は安全ですか?、どこまで安全にできるんですか?という技術論、それから、原発は安いのか高いのかという経済論。こればっかりなんですよ。
で、僕がこの本に倫理学という名前を付けて書きたかったのは、原発って“倫理の問題じゃないんですか?”ということなんです。要するに、原発っていうのはその利益を受けていない人にもとんでもないリスクを負わせるわけですよね。事故が起きた時などがそうですが、自分の利益のために他の人にリスクを負わせるというのはとんでもないことですよね。倫理的に許されることではない。
<河合> それは、事故による迷惑をかけることだけを言っている?
<古賀> もう1つ。もう1つは、将来世代に負担をかける核のゴミ、使用済み核燃料の負担です。これは、今、生きていない人も含めた将来世代に負担を先送りするというものです。
この2つを取っただけでも、普通の人間の考えであれば倫理的に許されない――ということは、そんなものはやめるっていうのが当然の結論なんですよ。技術的にどうかとか、経済的にどうかとかいう前に、まず、人間として生きる上で原発やめようよっていう結論が出るんですよ。
そうであれば、じゃあ、どうやってやめていきましょうかという話になって、そこから先は技術論だったり、経済論だったりというのが出てくるはずなんです。
が、日本の場合は、倫理の問題というのを取り上げ始めるとですね、あいつは原理主義だというレッテルを貼られて議論ができないんですね――で、ドイツでは逆じゃないですか。
やっぱり、倫理の問題としてどうですか?と問題を捉えて、倫理委員会というのを作ってですね、原発の技術の専門家なんかは除いてやった結論が、やっぱり、ドイツ人の生き方としては、まず、原発やめるんだという結論があって、じゃあ、その後どういう風にやっていきましょうか? じゃあ、10年位でなくしましょうか? という方向に行くんですね。
でも、日本は、その根本がないので、技術論と経済論でどっちが正しいか、100%わかるまではこっちだみたいな、そういう議論になっちゃってるんですね。
小泉元総理の「原発ゼロ」の趣旨とほぼ同じ――夢を作る事業への転換
<河合> まったくその通りですね。そういう観点からするとね、小泉さんの脱原発論と親和的な、同じ考えに近いと思うんですけど、小泉発言についてはどういう評価をしておられますか?
<古賀> 僕は、小泉さんが言っていることの最大の意味はこれ(著書『原発の倫理学』)と同じことだと思うんですね。
要するに、日本人の生き方を問いかけているんですね。それは、もう原発は許されないよと1つ言っているのと。
この本にも書いたんですけれども、もう1つの大きな意味は自然エネルギー・再生可能エネルギーにかけてみようという共同事業、これに国民が心をあわせて、そこに邁進していくという夢のある事業じゃないですか?と彼は言っているんですね。電気を消して太古の生活を送りましょうというんじゃなくて、技術が次の段階に行っているんですよ。
これは僕がドイツの大使に言われたことなんですけどね、日本人というのは元々自然を大事にする民族なんじゃないのかと。石ころひとつにも神が宿る、そういう民族だと思っていましたと。だから、普通に考えれば、原発のあの事故を見たら、日本人は原発やめて自然エネルギーだ、という方向に行くんだと思っていたけど、なんか、逆だね。ドイツがそっちに行っちゃったねと(笑)。
その日本人の生き方――今までは、いきなりそっち(原発ゼロ)の方に行こうと思っても技術的なやりくりがあって、なんか我慢しなくちゃいけないことばっかりだよってみんな思い込んでいたわけですよ。なんか電気料金がべらぼうに上がるとか、電力が足りなくなるから電気を作らなきゃいけないみたいに思っていたんだけど、実は、気がつかないうちに、それは技術的に克服されちゃってると。
今はもう次の段階として、自然と共に生きる、自然の中で生きるという日本人の生き方が技術的に可能になった。その段階に入ったにも関わらず、日本人だけが気づいていなくて、一番、日本人らしい生き方を捨てて、引き続き原発に頼って、原発を世界に売り歩きますみたいなね。
僕、言われたんですけど、安倍さんの後ろには髑髏マークがついてると。死の商人だと。
だけど、本当の日本なら、原発を売ってくれと言われたら「いや、もう原発はやめたほうがいいですよ。日本人の生き方をみてご覧なさい。自然エネルギーでね、こんなに素晴らしい世界を作っていますよ。この技術をあなたにあげるから、ぜひ、そっちに行きましょうよ」と。そういえば、夢を売る商人になれるのにと。
<河合> なんか、感動的な発言ですね。
<収録インタビューより抜粋>