スト-リー。事故の中でもがき苦しんだ人々は、専門的な知識の裏付けを持つ有識者たちは、人生をかけて原子力の安全を守ってきたはずの男は、何を感じ、何を語るのか?報道は、行政は、日本は、そして、私たちは、原発で幸せですか?

ストーリー

01ストーリー

この映画は、弁護士河合弘之と盟友弁護士海渡雄一、訴訟を共に闘う木村結の3人が多くの関係者、有識者にインタビュー取材を行い、現地での情報収集や報道資料等を基に事故に巻き込まれた人々の苦しみ、原発事故を引き起こした背景、改善されない規制基準、エネルギー政策のウソと真実を追求したドキュメンタリー映画である。

1953年、国連総会で「原子力の平和利用」が世界に発信されて以降、「夢のエネルギー」として国を挙げて取り組んできた原子力発電。
<夢のエネルギー開発が明るい未来を創る>。
これを信じ、原発の安全を信じてきた私たち。
でも、その夢は2011年3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所の、発電史上最悪の事故によって、無残に砕かれることになりました。

しかも、それは、地震・津波によって瓦礫に埋まったままのまだ生きているかもしれない人々を放置して故郷を後にするという経験したことのない災害という形になって私たちを苦しめることになってしまったのです。

故郷を追われた人々は今も苦しみ続けています。それでも再稼働を推し進めようとする政府と行政。
何がそうさせるのか、新規制基準によって再稼働することにはどんな問題があるのか。どんな利益があるのか。

丸2年の歳月をかけて、弁護士河合弘之と盟友弁護士海渡雄一、訴訟を共に闘う木村結の3人は、いくつもの裁判を闘いながら、多くの被災者に向き合い、有識者と語り合い、故郷を手放すことになってしまう災害とは何かについて、真実の声を聴き続けてきました。
私たちは原発で幸せですか?

01有識者インタビュー

小出裕章

原子力発電の場合、水を沸騰させるためにウランを核分裂させてエネルギーを得ているというところに何よりも根本的な問題があります

【プロフィール】
1949年生まれ/京都大学原子炉実験所助教/京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻助教

200年ほど前に蒸気機関を発明したことによって、産業革命というものが起こりました。水を沸騰させ蒸気を起こすことができれば機械が動くということを発明したのでした。今日動いている火力発電も原子力発電も、いずれも蒸気機関です。ただし、原子力発電の場合、水を沸騰させるためにウランを核分裂させてエネルギーを得ているところに何よりも根本的な問題があります。つまりウランを核分裂させてしまうと核分裂生成物、皆さんが「死の灰」と呼ぶものが避けることができずにできてしまう。そういう機械なのです。

古賀茂明

電力会社というのは、実は経済界全体を
支配できる会社なんです

【プロフィール】
古賀茂明政策ラボ代表/大阪府市統合本部特別顧問/元国家公務員(経済産業省)

電力会社は<総括原価方式>と<地域独占>とに守られて、絶対に儲かるんですね。発電所を作ったとか、そういう投資をした金額に一定割合を掛けて利益を出すので原発作るんだって高い方がいいんですよ。電力会社は高くても発注するから、みんなも電力会社に足を向けて寝られない。電力会社を敵にまわすということは、それぞれの地域の経済界全体を敵にまわすということ意味する。

青木秀樹

新規制基準では設計基準がそのままになってる。全然、反省がない

【プロフィール】
弁護士

新規制基準の問題は、万が一の事故が起きたとしても、周辺公衆に放射線障害を与えないような所に立地しなさいという、最後の安全基準に目をつぶっちゃったような指針・基準になっているってことで……
何を言っているかというと、シビアアクシデントがあったって、
うまくいけばこんなこと(立地指針による非居住区や低人口区の設定)なんか考えなくたっていいじゃないってことだと思うんです。

新規制基準の問題点

青木秀樹

田中三彦

僕は一生懸命原発を作るということイコール
安全だと思っていたんですよ
だから僕も手は抜かなかったんです

【プロフィール】
元原子炉設計技師/元国会事故調査委員

あれは1986年の4月のことだったと思うんですけどチェルノブイリの事故があって、プリピャチという町があって、あそこからまったく人がいなくなってブランコだけが風に揺れているとかね、あるいは、農家の人が勝手に戻ってきて食べちゃいけないような魚を釣っているとか、原発と社会の問題ってはじめてそこで考えたんですよ。それで―ああ、こんなことになるんだと。僕は一生懸命原発を作るということイコール安全だと思っていたんですよ。だから僕も手は抜かなかったんです。

田中三彦

飯田哲也

2012年の地球上の総発電量は、
風力と太陽光を足すだけで原子力の発電量を追い越した

【プロフィール】
「環境エネルギー政策研究所」所長

これまでの10年間は自然エネルギー第4の革命と言われるほど、倍々ゲームでどんどん増えてきている。これは、毎年毎年、1年間に正味で地球全体で増えた風力・太陽光。これまでの10年間は自然エネルギー第4の革命と言われるほど、倍々ゲームでどんどん増えてきている。これは、毎年毎年、1年間に正味で地球全体で増えた風力・太陽光。
そしてこちらが、増えたり減ったりしている原子力(グラフの解説・左写真参照:グラフは発電形態別の全地球総発電量の前年度対比数値を表している)。
風力と太陽光を足すと3億8千万kwになるんです。 一方、原発派世界全体で430期で3億7千万kwです。2012年には、風力と太陽光を足すだけで、原子力の発電量を追い越したんですよ。

ISEPホームページ・飯田哲也さんのメッセージはこちら

注目キーワード

原発の話やエネルギーの話は、耳慣れない用語が多めで少々わかりにくい。
有識者の話への理解を深めるには、ちょっとした用語チェックをしておくことがおススメだ。
このドキュメンタリーで使われているいくつかの専門用語のうち、特に重要なもの4つをご紹介しよう。

総括原価方式

総括原価方式とは、料金収入を“適正な原価”に従って決めることができる特定な公共事業を行うものに認められた会計方法である。消費者庁HPの「平成25年版消費者白書」第一部、第4章、第2節に「消費者政策の主な進展」より一部を抜粋する。――公共料金の在り方については、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故が電気料金に与える影響をめぐる議論を契機に、国民生活における公共料金の重要性が改めて認識されるようになり、消費者庁では「公共料金に関する研究会」を開催し、東京電力からの家庭用電気料金値上げ認可申請の手続きの過程で得られた認可プロセス、総括原価方式等における諸課題を踏まえ、公共料金の水準・内容や料金改定の手続き等について2012年11月に報告書を取りまとめました――このHPには総括原価方式の功罪も示されている。(下表は消費者庁図表を参考に作成)古賀氏はインタビューで原子力ムラ存続の鍵は<総括原価方式>にあると語った。消費者庁が示す“コスト削減が働かないデメリット”は、削減どころ誰かの利益まで上乗せする形にすり替わってしまい、多くのムラ人のメリットとなっているのだ。

メリット デメリット
  • ◆ 料金算定の根拠が比較的分かりやすい
  • ◆ 事業者の過大な利益・損失を生じない
  • ◆ 消費者が過大な料金負担を負わない
  • ◆ 安全性・サービス向上のための長期的な
    設備投資への誘因が働く
  • ◆ コスト削減の誘因が働かない
  • ◆ 原価に関する情報が事業者に偏っているので
    適正な原価の判断が難しい
  • ◆ 査定コスト・申請コストが膨大時間がかかる
  • ◆ 物価上昇等の経済情勢の変化に応じた料金設定が困難

立地指針

原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて
『原子力規制委員会』HPより

『原子力規制委員会』の「原子力安全委員会安全審査指針集」というweb上PDF(右図より該当ページへの外部リンク)は「旧原子力安全委員会」より提供された情報ですという注釈があり、「旧組織等の情報」というタブの中で、今も確認ができる。基本の立地についての話であるから、指針類のイの一番にその項目はある。Ⅰ.安全審査指針類1.発電用軽水型原子炉施設などに関係するもの(1)立地「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」である。
昭和39年5月に決定され、平成元年3月に一部改訂された文書だ。

青木氏が指摘する通り、立地の基本的な考え方に続き、<立地審査の指針>として「原子炉からある距離の範囲内は非居住区域であること」、<その距離>は「その人に放射線障害を与えるかもしれないと判断される距離までの範囲をとるものとし「非居住区域」とは、公衆が原則として居住しない区域をいう」と記されている。 そして、<その距離>とは該当文書において「甲状腺(小児)に対して 1.5Sv/全身に対して 0.25Sv」と定められている。更に、その外側に同心円状に低人口地帯の設置を定義しているが、この非居住区域を含む立地に関する設定が、新規制基準では記載されていないのである。

新規制基準

『原子力規制委員会』HPより以下引用

「今回の新規制基準は、東京電力福島第一原子力発電所の事故の反省や国内外からの指摘を踏まえて策定されました。以前の基準の主な問題点としては、地震や津波等の大規模な自然災害の対策が不十分であり、また重大事故対策が規制の対象となっていなかったため、十分な対策がなされてこなかったこと、新しく基準を策定しても、既設の原子力施設にさかのぼって適用する法律上の仕組みがなく、最新の基準に適合することが要求されなかったことなどが挙げられていましたが、今回の新規制基準は、これらの問題点を解消して策定されました。」とあります。

『原子力規制委員会』HP掲載:実用発電用原子炉及び核燃料施設等に係る新規制基準について【PDF:1.9MB】
※右図を含む<新規制基準>についての説明文書

■弁護士青木秀樹氏へのインタビューから~新基準は旧基準の欠陥を是正したかについて指摘~
①旧)立地条件が審査基準になっていなかった。新)立地指針が新基準の中に存在していない。また、立地指針を廃止するとも表示されていない。②新)にはシビアアクシデント(SA)対策が新設されているが、大規模自然災害対策(同時多発故障対策)がほとんどみられず、格納容器損傷・使用済み燃料プール損傷の対策はないに等しい。③新)にテロなどによる大規模損壊に対し示された具体策は放水のみであるなど、新基準が旧基準の欠陥を是正したと言うには不十分であることを示した。

最悪シナリオ

福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描

3.11当時、菅元総理の依頼を受け、近藤駿介元原子力委員会委員長によって作成、提出されたのが通称『最悪シナリオ』と呼ばれる報告書で、タイトルに『福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描』(平成23年3月25日)とある。地震・津波による全電源喪失によって始まった原子炉の崩壊は、3月12~16日にかけて1号機から4号機で爆発・火災・白煙を生じさせた。放水と5・6号機の非常用電源の確保が行われる中、21日には2号機から黒煙、3号機からは白煙が認められ、関東広範囲に亘って高い空間放射線量測定値が計測された。続く23日、SPEEDIの試算値が初めて公表された頃、1号機では温度上昇が懸念されていた。『最悪シナリオ』が官邸に提出された3月25日は、そういうタイミングだった。菅直人元首相のブログには「今回の原発事故で避難している人は16万人。しかし、最悪のシナリオのように首都圏全体から3000万人が避難した場合、避難者数でも200倍だから、東京の地価を考えれば損害は200倍をはるかに超える。200倍と計算しても1200兆円ということになる」とある。首都圏からの避難は避難者数の膨大さに加え、国の経済の根幹をなす首都圏地価の大暴落も招くのである。
要するに最悪の場合、首都圏の壊滅≒国の滅亡となるおそれがあるということである。

裁判はたったひとりでも正義をかけて闘える民主主義社会の安全弁みたいなものだ。だから、僕はひとりでも闘う。でも、それだけじゃ、みんなに伝わらない。ひとりでも多くの人に真実を伝えるには、やはり、映画しかない。(河合弘之)

伝えたいのは隠された真実 丸2年を費やし自分の眼で、耳で確かめた。

監督: 弁護士 河合弘之
経済・株・会社乗っ取り攻防で名を馳せた
河合を原発訴訟へと導いたのは、
未来にかける熱い想い
弁護士 河合弘之 ホームページ
【 プロフィール 】
  • さくら共同法律事務所 弁護士 1944年生まれ
  • 1967年9月司法試験合格
  • 1968年3月東京大学法学部卒業
 
【信条】
  • コンプライアンス(企業の法令遵守)とCSR(企業の社会貢献)をひろめること
  • 未来世代の代理人として地球環境を守ること(特に脱原発)
  • 弱い人・困っている人を助けること
河合の脱原発は1994年故高木仁三郎博士との出会いに遡る。核化学博士であり反原発の父と呼ばれた高木との出会いは、バブル景気の立役者たちを辣腕弁護士として支え続けてきた河合に、その後の生き方を見つめ直すきっかけを与えたという。
ちょうどその頃、河合に福島第一原子力発電所3号機のMOX燃料装荷差止仮処分申立てへの協力要請が弁護士海渡雄一からあった。これが河合の脱原発訴訟の歴史の1頁目となった。この時の裁判は惜敗を喫するが、その惜敗が河合と海渡の連携を運命付けることになる。
<詳しくは「日本と原発トーク」『二人の弁護士・海渡弁護士は共に闘う盟友』
こうして、一旦は回避されたフクイチ3号機のMOX燃料装荷だったが、2010年10月プルサーマル運転が再開されることになった。
その翌年、東日本大震災が起きた。
構成・監修: 弁護士 海渡雄一
大学3年の時に原発訴訟をやると決めてから
40年間取り組んできました。
子どもの頃は天文少年だったんですけどね。
【 プロフィール 】
  • 東京共同法律事務所 弁護士 1955年生まれ
  • 1978年9月司法試験合格・1979年3月東京大学法学部卒業
  • 日本弁護士連合会事務総長(2010~2012年)
まあるい瞳とニコニコ笑顔。弁護士的イメージがまったくない外観からは、海渡が持つ情熱や探求心を計り知ることはできない。
元々天文少年だった。漆黒の空に輝く星々の広がりに興味が尽きることはなかった。天文少年時代、関西の名門灘校の『銀の匙教室』の生徒でもあった。当然、理系に進むと思われていた海渡が法学部を目指すきっかけとなったのは、数Ⅲで点数が伸びなかったためだという。それでも海渡はストレートで東大法学部に入学した。入学式で出会ったのが元社民党党首で生涯の伴侶でもある福島瑞穂だった。大学3年の時にはすでに原発問題に取り組む弁護士になると決めていた。そのきっかけは1977年の故久米三四郎大阪大学講師の東大公開自主講座だった。
<続きは「日本と原発トーク」『海渡雄一インタビューから』
大学時代に向き合うと決めた原発訴訟はすでに約40年を経過する天職となった。一方で海渡は、監獄人権センター事務局長も務めている。なぜか。「僕はこういう活動をしてるでしょ?だから、いつ何時政治犯だなんて濡れ衣を着せられるかわからない。そうなった時にね、生きて出てこれる刑務所にしておかなきゃと思ってるの。今の状況じゃ生きて出てこれないかもしれないから……」。
満面のニコニコ笑顔からは想像できない覚悟である。
制作協力: 木村結
30年も市民運動を続けてきたのは、
悩んだ末に産んだ子どもたちに安全な未来を
手渡したかったから。
世界は自分で創り出すものと伝えたかったから
【 プロフィール 】
  • 「東電株主代表訴訟」事務局長 1952年生まれ
福島告訴団の提訴する東電経営者に対する刑事告発・告訴は、検察審議会によって一部経営者の起訴相当と決議された。この追い風を受けると思われるのが『東電株主代表訴訟』である。審議会決議文に示した電力経営者の管理義務。これが『東電株主代表訴訟』の中核をなすからだ。木村はその事務局長を務めている。
木村と原発の関係はチェルノブイリ事故に端を発するが、そもそも柏崎刈羽原発の近隣で育ち、ソ連を通過して来る偏西風の風下である日本海沿岸 で育ったことが、木村の原点を形成しているとも言える。
1987年木村らが行った中野区の放射能測定室の設置運動は、1989年4月自治体として全国初の放射能測定室を実現させた。区内の保育園や小中学校の給食食材を測定したほか、区民の持ち込み食材も測定し、木村が作った連絡会でデータを公表。
同年7月、全国各地の脱原発運動と連携し「原発いらない人 びと」を立ち上げ、東京選挙区候補として参議院選に出馬した。選挙後も、福島や新潟に原発を押しつけている東京でできる運動を模索し、株主総会に脱原発提案を提出している。現在、この運動は原発がある9電力すべてで行われている。
  
音楽: 新垣隆
山や海とか波が心に語りかけてくるような、
音楽を作ろうと思いました。
その中に建物がある…
【 プロフィール 】
  • 作曲家/ピアニスト 1970年生まれ
  • 桐朋学園大学音楽学部作曲科卒業
この映画のために描かれたオープニングとエンディングの交響曲、中盤で流れるシンセサイザーの楽曲は、新垣隆として発表した2作目となった。
演奏の収録後、河合は新垣に今回の作曲についての思いを聞いた。
収録が終わった後のガランとしたスタジオで、河合の隣に座った新垣は、収録中の、演奏の一部始終を、音の一つひとつまでも確かめるような厳しい表情とはうって変わった、柔らかい笑顔を見せた。
交響曲収録直後の新垣隆・河合弘之対談から
―まったく違うイメージを持つ2曲からなる2作目の交響曲を創って―
<河合> 今日は録音ご苦労様でした。私もずっと聴いていたんだけど、まさに僕が思っていたような音楽が出来て非常に幸せに思っています。この2つの音楽をどういうイメージ・コンセプトで作られたのか、オープニングとエンディングに分けて説明していただけますか?
<新垣> オープニングとエンディングの2曲は非常に対照的です。
オープニングは原子力の持つ力とか、これから進めていくんだいう約60年間の流れを表現しているんですね。過去のこととなりましたが、バラ色の未来だったということなんです。非常に力強く、躍動する感じ。ある意味、楽観的な音を前面に出したんですね。
それを3.11で断ち切られて、それ以降の世界、エンディングでは原発の風景が流れるのですが、海と山に囲まれていたというところ――原発それ自体よりも、山とか海とか波とかいうものを謳っているというか、その中に近代的で大きな建物があるっていうことを表現しようと思いました。
 
<続きは「日本と原発トーク」『交響曲収録直後の新垣隆・河合弘之対談から』
大飯原発差し止め訴訟、
「福島原発告訴団」の刑事告訴・告発、
東電株主代表訴訟は連動する
原発訴訟は長い負け続けの歴史だった。もちろん中には画期的な判決もあった。誠意を尽くしてくれた裁判官もいた。3.11以前、前向きに原発問題と向き合う裁判官たちは飛ばされた。そんな状況の風向きが少し変わってきた。
実際に福島で起きた悲惨な事実が裁判官の判断に影響を与えているのだ。しかも、改善しきれない原発構造の脆弱性は変わっていない。補強しきれない夥しい配管類、外部電源の生命線でありながら脆くも崩れる鉄塔等……問題は今もそこにある。河合は言う「大飯の判決文は、我々の長い闘いの結果として天から降ってきたような大変ものなんだ」と。
原発訴訟とは何か? 民主主義社会が用意した安全弁はどのように機能するのか?
原発訴訟早わかりポイント
『原発訴訟』とは?
河合・海渡が闘う原発に関連する訴訟についての概略をご紹介しよう。3.11までの「原発訴訟」とそれ以降では賠償や責任という点で大きな変化があり、現状では<訴訟>という言葉で一括りにはできない状況となっている。【運転差止訴訟】【刑事告訴・告発】【原発賠償問題】【東電株主代表訴訟】の簡単な説明は各項目タブをクリックしてチェック。詳しくは海渡雄一著『原発訴訟』岩波新書のご一読を。

運転差止訴訟

3.11以前、運転差止訴訟は<行政訴訟>と<民事訴訟>とに大きく二分されてきた。<行政訴訟>は経済産業大臣などの国に対して、許可取消しを求める訴訟で、1件目は40年以上も前の1973年8月27日提訴「伊方原発1号炉」設置許可取消だった。<民事訴訟>とは、電力会社などの設置者に対して施設の建設・運転の差し止めを求めるもので、1981年12月26日提訴の「女川原発1、2号機」建設・運転差止訴訟が1件目となり、以下の原発:志賀1号炉、泊1、2号機、志賀2号炉、浜岡1~4号機、島根1、2号機、大飯、大間等に対し、建設・運転差し止め等の提訴が行われた、3.11以降、民事訴訟を主軸に、全国ほとんどの原発で運転差止訴訟等が提起されている。詳しくは海渡雄一著の<泊原発差し止め訴訟提訴1周年記念講演会pdf>をご一読いただきたい。
 
『IWJ Independent Web Journal』への外部リンク
◆ 2014/05/23 「判決文要旨を読んでみんなに広めよう」大飯原発運転差し止め判決後、初めての官邸前抗議

◆2015年4月14日、高浜原発3,4号機運転差止仮処分命令申立事件は、関西電力に高浜原発3号機、および4号機の原子炉を運転してはならない仮処分の決定となりました。

刑事告訴・告発

この告訴は『福島原発告訴団』によって行われている。ホームページより以下抜粋紹介――東京電力福島第一原子力発電所の事故により被害を受けた住民で構成し、原発事故を起こし被害を拡大した責任者たちの刑事裁判を求め、福島地方検察庁へ告訴を行いました。検察の不起訴処分に対し検察審査会へ申立て、「起訴相当」を含む議決が出されました。その後、検察の2度目の「不起訴」処分が出ましたが、検察審査会はそれを覆し、2015年7月31日「起訴すべき」の議決を発表しました。今後は公判廷において東電元会長ら3名に対し原発事故の刑事責任を問う裁判が開かれることになります。――
福島原発告訴団の集会が2013年8月4日にいわき市センターで行われ、その際、河合は以下のように話している――これほどの肉体的・経済的・全人格的被害を国民に与えておいて、東京電力はこれをどうやって償うんだ……と思いました。それはやっぱり、それなりの罪を受けていただくしかない。こんなことにしてしまった東京電力の役員をこのままにしておくことは本当に正義に反すると思いました。私たちは正義を貫くことから始め、日本じゅうの原発をなくしていくまでの闘いを今日も明日もずっと続けていかなくてはなりません。(河合弘之)

原発賠償問題

左から、長谷川健一団長、海渡弁護士、河合弁護士、保田弁護士、中川弁護士、大森弁護士

「飯舘村民救済弁護団ニュース No.1 2014.09.24」pdf
これまで原発ADRは、全国各地で20を超える弁護団が申立を行ったり、東電と集団交渉を行ったりしてきたが、東電が和解に応じないと成立しないため和解しやすい内容にせざるを得ないなど裁定機能がないことによる限界が見え始めた。そこで、現在は18弁護団が17裁判所において、6,925人の原告と集団訴訟を行っている。河合のグループは、飯舘村住民と、すべての福島原発事故被害者と共に、生活再建が見合う完全賠償を実現させるために活動を行っている。
 
『原発被害糾弾 飯舘村民救済申立団』のホームページ

東電株主代表訴訟

株主代表訴訟とは、株主が会社に変わり取締役の責任を追及する訴訟である。2011年11月14日、東電株主の一部有志が、福島第一原子力発電所の事故に関連し、東京電力が負った事故賠償を含む責任に対し、取締役の経営責任を追及するよう提訴請求を行ったものである。これは、3.11にみられるように事故被害が甚大かつ過酷である原子力発電所を有する電力会社の取締役は、原子力発電所の建設・運営に対し安全措置を講じる義務があるにも関わらず、それを怠った=任務懈怠・善管注意義務を怠ったとする責任追及訴訟である。
2014年9月11日公開された通称「吉田調書」から、設計想定を遙かに超える津波が来る可能性の報告を受けており、また、その対策の必要性を認め、費用や地域への影響等を検討したにもかかわらず、対策を先送りし事故を招いたことが明らかになった。2014年9月、海渡は口頭弁論後の記者会見でこれを解説した。
原告団と弁護団との連携が原発訴訟を支えている
海渡はいつも原告団の人々の気持ちを想う。
「原告の人たちはね、親戚とか仕事先とか周りの人たちに、いろんなこと言われたりしながら、それでもがんばってくれているんです。だから僕たちも一緒になってがんばらないと」と。
原告団として、あるいは弁護団として活動している方々をご紹介!
武藤類子さん<福島原発告訴団団長・武藤類子さんインタビューbyカタログハウス>
http://www.cataloghouse.co.jp/yomimono/genpatsu/mutoh/
※ハイロアクションはツイッターで活動状況を報告中。
フォローはこちら @hairoaction
@hairoactionのTwitterプロフィール:
2011年3月、福島に初めて作られた原発が運転40年を迎えます。40年―これは原発の当初の設計寿命です。これから私たちは、様々な問題を抱える「廃炉の時代」を生きることになります。この時代を、私たちの生命をつなぐ希望の未来にしていくために、原発に依存しない地域社会、エネルギーと私たちの暮らし・・・一緒に考えてみませんか!
大飯から原発を止める会
http://adieunpp.com/
大飯原発3、4号機運転差止請求事件に対する弁護団コメント
http://adieunpp.com/lawyer/lawyers.html
脱原発弁護団全国連絡会
全国でバラバラに起きていた原発差止訴訟。海渡や河合はその多くに関わってきた。3.11以降、全国で原発訴訟を模索してきた弁護士の連携が始まった。
ひとりでは闘いきれない。
人の輪が、卓越した知恵が、ひらめきがお互いを支え合う。
そんな組織が『脱原発弁護団全国連絡会』である。
 
全国原発訴訟一覧
 
『脱原発法制定全国ネットワーク』は、脱原発法の制定を求める市民団体で大江健三郎氏と河合が共同代表を務め、脱原発弁護団全国連絡会も賛同しています。

製作・監督:河合弘之  構成・監修:海渡雄一  制作協力:木村結  音楽:新垣隆

脚本・編集・監督補:拝身風太郎  撮影:中島喜一  制作・配給:Kプロジェクト

【お話を伺った方々】

佐藤暁 崎山比早子 小泉純一郎 細川護熙 近藤駿介 木元教子 青木秀樹 飯田哲也 大島堅一
古賀茂明 田中三彦 馬場有 小出裕章 武藤類子 アナトーリー・チュマク 避難生活を送る方々 河合弘之 海渡雄一 木村結

上映時間:2時間18分  制作年:2015年  制作国:日本  制作:Kプロジェクト