世界的に、エネルギー転換は始まっている。
17/01/22
「脱原発弁護士 河合弘之の戦い」(『週刊現代』)
「脱原発闘争は、勝ち目のある戦い。世界的に、エネルギー構造の転換は始まっている。もう少し辛抱すれば、必ず勝てるのです」
バブル期の名だたる経済事件で勝利を積み重ね続けた敏腕弁護士は、今、原子力ムラを敵に回して、勝つまで闘い続ける。
かつてビジネス弁護士として名を馳せた男の時間は今、大半が脱原発運動に費やされている。「映画監督」もその一環だ。「仕事の7割は脱原発。残りの3割が、企業事件の弁護士活動だね」
でも脱原発運動は報酬ゼロでしょう?そう尋ねると、ニッと笑った。「原発差し止め訴訟に勝っても経済的利益はない。着手金もゼロなら成功報酬もゼロ。日当もない。だから僕は脱原発以外の3割でメシを食っている。そんなこと言うとクライアントが不安になっちゃうかな〜。若い弁護士に手伝ってもらってるから大丈夫なんだけど」
少し甲高い声で小気味いい言葉がテンポよく繰り出される。なるほど、中学生時代に「人前で話すのが上手だから」と教師から弁護士になることを勧められたという話も頷ける。
監督したドキュメンタリー映画『日本と原発』は、映像表現は専門家の指導を受けているが、構成はすべて、共闘する海渡雄一弁護士とともに河合が考えた。小出裕章元京大助教や古賀茂明氏など有識者へのインタビューを中心に、原発の危険性や原子力ムラの構造を伝える内容だ。
「僕の映画は脱原発のための”武器”なのです。原発推進派が言う『原発が必要な理由』を一つひとつ叩き潰すための理論が画面に詰まっている。映画を見さえすれば、推進派なんか簡単に論破できるようになる」
映画は、全国各地で自主上映されている。これまで、来場者数は約6万人、収入も4000万円を超えた。「製作費が3500万円くらいだったから、儲けが出ちゃったよ」
と笑う河合は、その儲けを元手に続編『日本と原発 4年後』を製作。その行動力はどこから来るのか。
バブル期を仕事漬けで過ごした河合だったが、年を経るにつれ、立ち止まることも増えていった。
「俺の人生、これだけで終わっていいのかな。次の世代のために何かできることはないか、とね」
考えた末、「キレイな日本を残したい」と考えた河合は、20年ほど前から原発問題に立ち向かっていく。だが、実際に対峙すると、原子力ムラの強大さを嫌というほど見せ付けられた。
「脱原発訴訟では20連敗しました。やってもやっても負けるわけ。原子力産業は、最大最強の利益集団なんです。ずいぶん疲弊しちゃってね。正直に言えば、年齢も年齢だし、そっと運動からズラかろうかなって、考えたこともある(笑)」
そこに、福島第一原発の事故が起きた。「あの事故で『逃げちゃいけない』と肚を決めました」
事故を機に、反原発・脱原発の世論も盛り上がり、河合らの運動を取り巻く環境も変化し始めた。
弁護団の共同代表を務めた、高浜原発の運転差し止めの仮処分を求めた裁判では、河合たちの主張が認められ、再稼働に歯止めをかけることに成功した。
事故を防げなかった東京電力経営陣の責任を明確にするため、株主代表訴訟を提起した。被告の一人、勝俣恒久・東電元会長は東大卓球部の先輩。ためらいはしたが、妥協はしなかった。
「脱原発闘争は、勝ち目のある戦い。世界的に、エネルギー構造の転換は始まっている。もう少し辛抱すれば、必ず勝てるのです」
(「脱原発弁護士 河合弘之の戦い ーエリートはなぜ立ち上がったのかー」:「『週刊現代』十一月二十一日号」より(抄)/2016年)